「アフターデジタル」は、中国に在住する著者が自ら体験する、中国最先端のデジタル事情を紹介しながら、デジタルが浸透した生活がどのようなものなのかを考え、近未来のビジネスの在り方などを提言しています。
藤井保文さんの紹介
株式会社ビービット 東アジア営業責任者、エクスペリエンスデザイナー。
東京大学大学院学際情報学府情報学環修士課程修了。
2011年、ビービットにコンサルタントとして入社。企業のデジタルUX改善を支援。
2014年に台北支社、2017年からは上海支社に勤務。
現在は日系企業向けに「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティングを行っています。
尾原和啓さんの紹介
IT批評家、藤原投資顧問 書生。
京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタート。NTTドコモのiモード事業の立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリーなど複数の企業で、事業企画や投資、新規事業に従事された経験をお持ちです。
ほかには、経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任されています。
↓藤井保文さん、尾原和啓さんの本
「アフターデジタル」の要約
まえがき
第1章 知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質
第2章 アフターデジタル時代のOMO型ビジネス
第3章 アフターデジタル事例による思考訓練
第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革
あとがき
この本は、主にサービス業を営んでいる企業の経営者に向けて書かれた本です。今回はその中から、デジタル先進国である中国の日常生活の様子をご紹介します。
米国の一部地域、中国の都市部、エストニアなど一部の北欧地域では、すでに「デジタルトランスフォーメーション」が人々の生活に溶け込んでいます。
「デジタルトランスフォーメーション」とは、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。これだけでは分かりにくいと思いますが、この書評を読み終わるころには何となく理解できるようになればいいなと思います。
中国の都市部では、お金の流れは現金ではなく、デジタルが主流になっています。路上生活者も神社のお賽銭箱もキャッシュレスです。
中国ではインターネット人口が8億人を超え、その97%がスマートフォンを保有し、都市部に至っては、スマートフォン保有者の98%がモバイル決済を行っているとの調査結果があります。14ページ
中国のモバイル決済 2大勢力
アリババ・グループ … アリペイ(Alipay)
テンセント・グループ … ウィチャットペイ(Wechat Pay)
街でコーヒーを購入するのも、スーパーで買い物をするのも、タクシーを利用するのもスマホひとつで事足りますし、多くのサービスで、デリバリーが利用できます。
中国では「モバイルで何でも呼び出せる」状況にあるため、家の外に出る必要がなくなってきており、121ページ
まず、この前提を覚えておいてくださいね。
中国のコーヒーショップ「ラッキンコーヒー」
中国ではフードデリバリーが盛んです。OMO型コーヒーショップの台頭で、スターバックスが苦戦を強いられています。
ラッキンコーヒー(ティッカーコードLK)は、テイクアウト&デリバリーの、急成長の格安コーヒースタンドです。スターバックスのような客席はありません。2017年に創業し、わずか2年でナスダックに上場しています。
利用方法
アプリをダウンロードするとタダ券が1枚もらえます。アプリからでしか購入できません。注文方法は、「デリバリーか自分で取りに行くか」を選びます。メニューはスマホアプリで表示します。
支払い方法は、モバイルで支払うか、コーヒーチケットを購入するかどちらかです。コーヒーを受け取るときは、購入後のQRコード(番号付き)を見せます。
QRコードは他人とシェアできるので、「プレゼントしたり、誰かに代わりに取りに行ってもらったり」ができます。
コーヒーチケットは2枚購入すると1枚タダで、5枚購入すると5枚タダです。このように注文から決済まですべてがモバイルアプリを使ったデジタルです。
中国のアリババ系列スーパー「フーマー」
フーマーは、OMO型のネットスーパーです。中国ではとても人気があって、「フーマーの店舗の3キロ圏内の住宅物件は、値段が上がっている」といわれるほどです。
フーマーは、デリバリーも可能なネットスーパーです。オンラインで注文すると、フーマーの店舗の3キロ圏内であれば、30分以内に配送してもらえます。
動画では、実店舗の店内の様子が紹介されています。
消費者は実店舗に直接買いに行って購入することもできるし、その場でスマホで配達依頼をして、自分は手ぶらで帰ることもできるし、自宅にいながら、デリバリーで届けてもらうこともできます。
店内には、店員がたくさん常駐しています。店員は、店内の接客のほかに、オンラインで受注した商品を、商品棚からピックアップして、保冷バッグの中に入れています。
保冷バッグの商品は店内のハンガーにかけられ、ベルトコンベヤーに乗ってフーマーのバックヤードにある配送センターに運ばれます。(ここまでの所有時間は5分)
バックヤードで待機しているデリバリー担当のドライバーが、残りの25分で自宅まで届けます。
店内には大きな生け簀があって、新鮮な食材を直接目で確かめることができます。フードコートでは、その食材を調理して提供していますので、店内で食べることもできますし、食材を持ち帰ることもできますし、自宅からオンラインで注文することもできます。
フーマーは、デリバリーの盛んな中国で、あえて消費者に、外に出てきてもらうために、生け簀を見せたり、ベルトコンベヤーで保冷バッグが移動するところを見せるなど、エンターテインメント性を持たせた店舗業態になっています。
※ デジタルを使ったエンターテインメント性のある体験のことをUX(ユーザーエクスペリエンス)というようです。
ラッキンコーヒーと同じく注文から決済まで、すべてはフーマーのアプリを使ったデジタルです。
OMOとは何か
アフターデジタルとは、OMOという概念を、理解しやすいようにと考えて、藤井保文さんが作った造語です。OMO(Online Merges with Offline)の略で、オンラインとオフラインの垣根がなくなる状態を指します。
つまり、ラッキンコーヒーやフーマーのように、リアル店舗(オフライン)にいても、スマホで常に、インターネットにつながっている状態(オンライン)のことを言います。
消費者のあらゆる行動が、オンラインデータになって、個人のIDとして結びつくのです。
どういう嗜好で、どの店舗をよく利用するのか、どんな支払い方をするのかまで可視化される時代になる。16ページ
注文から決済まですべてモバイル(デジタル)で行われるというのがポイントです。そしてそのデジタルデータは消費者のIDに紐づけられて、顧客の行動データとして企業側に蓄積され、解析され、マーケティングやサービス向上、企画などに利用されます。
消費者側からみたOMO
私たち消費者は、その時一番便利な方法でサービスを受けることができます。今でも、例えば、道を歩いていて、なにか食べたいなと思ったらレストランに入るだろうし、またある時は、自宅でピザを宅配で注文するときもあるかもしれません。
このように今まで当たり前のように行っていた行為が、今までと決定的に違うのは、モバイル(デジタル)で注文して決済するという点です。
企業側からみたOMO
企業側からすると、IDに紐づけられた顧客の行動データが大量に取得できます。これからの時代は、この顧客の行動データは企業にとって、とても価値のある資産となります。
中国では顧客のデジタルデータ取得を目的としているのでは?と思われる買収事例もあります。(美団のモバイク買収 21ページ)
これからの時代、企業側は取得した顧客のデジタルデータを使って顧客のニーズに答え続けないと、企業間の競争に負け、その結果、顧客がサービスを利用しなくなるので、デジタルデータさえも取得できなくなるという負のスパイラルに陥ります。
信用スコアとインセンティブ設計
中国には、他人を信用せず、損したら負けという価値観があるために、中国人はマナーや順番を守らなかったりするそうです。
それが、信用スコアとインセンティブ設計のおかげで、マナーをわきまえた礼儀正しい中国人が増えてきたそうです。
ジーマクレジット(信用スコア)
アリババ傘下の金融会社「アント・ファイナンシャル」が提供しているアリペイの機能のひとつ。アリペイの利用履歴や、提携サービスの利用状況などの顧客のデジタルデータをAIで分析して、顧客の信用スコア(支払い能力)を算出しています。
評価軸は、「個人特性、支払い能力、返済履歴、人脈、素行」で、スコアは350点~950点です。出身大学や職業を自己申告して、スコアを上げることもできます。
点数が高くなればなるほど、アリババ・グループやその提携先が提供するサービスの特典の恩恵を受けます。例えば、賃貸の敷金やホテルなどのデポジット(預り金)が不要になったり、賃貸や個人融資が借りやすくなったりなどのメリットがあります。
インセンティブ設計
インセンティブとは、ユーザーのやる気を引き出すための仕組みを指します。具体的には給料を上げたり、昇給したりという報酬をユーザーに与えます。
中国のタクシー配車アプリ「ディディ」では、ドライバーを4つのランクに分けています。評価基準は3つあり、デジタルデータで計測し、不正ができないようになっています。
1.配車リクエストに対する応答時間(すぐに答えたか)
2.配車リクエストを受けた後のユーザーを待たせた時間
3.安全運転をしているかどうか
スコアが高くなればなるほど、給料が上がり、待遇もよくなります。そのため、ドライバーは、スコアをあげようと、マナーを守り、礼儀正しくなります。
「アフターデジタル」の感想
今の中国は、「善行を積むと評価され、メリットを享受できる」というシステムになっています。その評価基準は、デジタルデータで可視化されたインセンティブなので、何をどうすれば評価されて、待遇が良くなるのかが誰にでも簡単にわかります。
従業員からすれば、何をどう努力すれば評価されて昇進できるかが明確だとモチベーションは上がるものです。
データを活用した仕事の評価システムの導入で従業員が変わり、その広がりで社会全体が変わって民度が上がるという現象が起きています。それが今の中国の現状です。31ページ
「デジタルデータを使ったインセンティブ設計」というお仕事の存在を、私は初めて知りました。この仕事は一般事務員とかスタッフとかがやる仕事ではなく、企業のCEOレベルの人が行う、会社や社会のシステムそのものを作るお仕事です。
「デジタルデータを使ったインセンティブ設計」は、「ディディ」の例を見てもわかる通り、設計者の思惑通りに、ユーザーを動かすことができてしまいます。
デジタルデータは、個人の信用度を図る物差しに使われたり、従業員のモチベーションアップのために使われたりと、さまざまな活用法があります。
インセンティブ設計を行う人は、人間として高い理想を持ち、広い視野で、物事を見ることができる人が行わないと、世の中が良くならないと思いました。
中国、エストニア、シリコンバレーとつぶさに見てきた結果、見えてきたことがあります。それは、彼らは企業だけでなく、また、人の立ち振る舞いだけでなく、国の在り方をも変える思いを持ってやっており、(中国がここ数年で礼儀正しくなった!とは今やよく聞くお話ですね)
193ページ あとがきより
私は中国企業のCEOたちは、中国をより良い社会にしたいと考えているんだな、と感じてとても安心しました。
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