「人」は、突然両親を失い、天涯孤独となった主人公柏木聖輔が、偶然立ち寄った総菜屋で働くことになり、周囲の人との関わりの中で、自分らしい生き方を見つけていく物語です。下町商店街の淡々とした日常を描いています。
小野寺史宜さんの紹介
2006年に「裏へ走り蹴り込め」で、第86回オール讀物新人賞受賞、2008年に「ROCKER」で、第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。本作品である「人」は、2019年本屋大賞2位を受賞した作品です。
人気シリーズ作品に「みつばの郵便屋さん」があります。
↓小野寺史宜さんの本
「人」のあらすじ
一人の秋
一人の冬
一人の春
夏
登場人物
主人公
柏木聖輔…20歳。17歳で父を、20歳で母を亡くす。
おかずの「田野倉」
田野倉督次…「田野倉」の主人 67歳。
田野倉詩子…督次の妻 65歳。
稲見映樹…「田野倉」の従業員 24歳。
稲見民樹…督次の友人で映樹の父親。
野村杏奈…映樹の彼女。
芦沢一美…「田野倉」の従業員 37歳。母子家庭。
芦沢準弥…一美の息子。
おしゃれ専科「出島」
出島滝子…おしゃれ専科出島のオーナー。
出島貞秋…滝子の夫。故人。
リカーショップ「コボリ」
小堀進作…田野倉の近所の酒屋。
小堀裕作…進作の息子。
ちさと…裕作の妻。30歳前後。
ちなつ…ちさとの娘。3歳。
その他登場人物
柏木義人…聖輔の父。三年前に交通事故で死亡。「鶏取」という店をやっていた。
柏木竹代… 〃 母。自宅で死亡。死因は不明。
船津基志…竹代のいとこ。聖輔の従叔父。無職住所不定。
中谷兼正…竹代の同僚。
尾藤蕗子… 〃
丸初男…「多吉」の料理人。義人のかつての同僚。
板垣三郎…「やましろ」時代の料理人。〃
山城時子…「鶏蘭」のオーナー。「やましろ」元オーナー。
山城力蔵…時子の夫。
篠宮剣…大学のバンドのメンバー
川岸清澄…大学のバンドのメンバー
川岸いよ子…清澄の母親
石井千五…大学のバンドのメンバー
石井十五…千五の父親
原口瑞香…聖輔の元彼女
成松可乃…剣の彼女
成松沙乃…可乃の妹
井崎青葉(旧姓 八重樫)…高校時代の同級生。聖輔の片思いの相手。
高瀬涼…青葉の元彼氏
井崎平太…青葉の義理の父
大田なぎさ…高校のバンドのメンバー
坂部誓…高校のバンドのメンバー
門馬航星…高校のバンドのメンバー
里見伸竹…バンブーズのヴォーカル
あらすじ
3年前の17歳の時に、父親が交通事故で亡くなり、その後を追うように、20歳の時に母も自宅で突然死します。
両親を亡くした為、聖輔は大学を中退せざるを得なくなります。ある日、偶然立ち寄った、南砂町の総菜屋「おかずの田野倉」でアルバイトをすることになります。
「砂町銀座商店街」には、おかずの「田野倉」をひいきにしてくれるお得意様である「おしゃれ専科出島」や「リカーショップコボリ」があります。
田野倉のオーナーと従業員、砂町銀座商店街の人々、聖輔の大学時代のバンドのメンバーや、高校時代の同級生、父親の義人が若いころに修行していた「やましろ」の元オーナーや従業員との交流を描いています。
突然、天涯孤独となった聖輔が、偶然の出会いを通して、自立していくまでの物語です。物語は、聖輔が、おかずの「田野倉」に就職してからの1年間が描かれています。
「人」の感想
両親を亡くし、大学をやめた二十歳の秋。
見えなくなった未来に光が射したのは、
コロッケを一個、譲った時だった――。
この本の紹介文を見て、どんな話が展開するのか、興味が湧いてきたので、読んでみようと思いました。
私は「わらしべ長者」のような思いがけない話につながっていくのかと思っていたのですが、そうではなく、実際にありそうな現実的な話です。
主人公の聖輔は、仕事ぶりが真面目なので、子供のいない田野倉の主人に気に入られ、将来店を任せるということをそれとなく言われます。聖輔自身も、父親のような料理人になろうと思い、将来の進路を定めます。
聖輔は、少々お人よしで遠慮がちな真面目な男性です。5万円もした楽器のベースを、田野倉の従業員である一美の息子、準弥に無料であげちゃいます。一美が1万円支払うといっても、お金ももらわないし、せめて食事でもという申し出も断ってしまいます。
他にもいろんな人の申し出をことごとく断ります。まだ若いんだし、もう少し人に甘えてもいいんじゃないかと私は思いました。
遠い母方の親戚である船津基志は、定職につかず住所も不定、聖輔のなけなしの全財産である150万円をせびりに来ます。田野倉の従業員で、聖輔の同僚である映樹さんは、聖輔をかばって、船津基志を追い返します。
このシーンは気分がスカッとしますね。映樹さんはすごい勇気があるな、と思います。
聖輔の境遇は悲惨だけれど、本人は若い男性だからなのか、あまり深刻な感じがしないです。生活はギリギリだけれど、仕事もあって一人で自立できてるし、周囲の人も親切です。
飲食店業界での仕事は大変だけれど、聖輔は、持ち前の忍耐強さで、きっとこれからもうまくやっていけるだろうという感じがします。
「映樹とあんたが兄弟ならいいのにねぇ」
田野倉のオーナー夫妻は、聖輔が店を継ぎ、映樹と一緒に田野倉で働いて欲しいと思っています。
映樹は聖輔より先輩なので、聖輔が店主では、映樹は働きにくいだろうと田野倉夫妻は思っています。ここら辺のことは、最終的にみんな具合よく落ち着くところに落ち着きます。
最後はみんな幸せになるので、読後感は良いです。
話の中に盛り上がる部分があるわけではないですが、下町の日常と人情をハートフルに描いた作品です。