「ちょっと今から人生かえてくる」は、「クロスオーバー作品」です。登場人物が、それぞれ意外なところで繋がります。青山隆からつながる5人の主人公の働き方・生き方を描き、最後は本の題名にたどり着きます。
北川恵海さんの紹介
北川恵海さんは、五十嵐諒のことをきちんと書きたかったことと、青山隆とヤマモトを大好きになってくれた読者へのお礼の意味を込めて続編を書いたそうです。
残念ながら、現実世界ではなかなか奇跡など起きないし、だからこそせめて物語の中ではハッピーエンドを見ていたい。
おとぎ話の「めでたしめでたし」のその後もずっと続く現実を、ひたすら幸せに向かって地道に歩くみんなの姿を見て欲しかったのです。
あとがきより
北川恵海さんという人は、自分の書いた登場人物の、どの人物にも愛着を感じていて、どの人物にも、もれなく幸せになってもらいたいという気持ちがあるんだなぁと思いました。
この本の伝えたいメッセージは、「生きていればこその人生。人生はいくらでも自分次第で変えていける。」なのかな、と私は感じました。
「ちょっと今から人生かえてくる」を読もうと思ったきっかけ
はてなブログで、「ちょっと今から人生かえてくる」の書評を書いていた方の記事を読んで、読んでみたくなったので、まずは↓前作を読んで、この続編を読みました。
↓北川恵海さんの作品(前作)
↓映画(DVD)
↓2019年7月25日発売の続編
「ちょっと今から人生かえてくる」のあらすじ
十二月五日(月)五十嵐諒の場合
二月十七日(金)米田圭吾の場合
「無題」A面 あるミュージシャンの場合
二月二十七日(月)青山隆の場合
「無題」B面 ある男の場合
〇月△日(☆)二人の場合
あとがき
「ちょっと今から買い物いってくる」
↓以下は、「ちょっと今から仕事やめてくる」の一部ネタバレ含みます。
主な登場人物
5人の主人公
五十嵐諒…本の編集や添削が趣味。
米田圭吾…五十嵐諒の友人。小説を書いている。
潤吾…ストリート出身のミュージシャン。Yのイニシャルのギターケースを持っている。
青山隆…臨床心理士を目指している。
柳瀬…突然姿を消した潤吾の親友。
その他の登場人物
ヤマモト…それぞれの主人公のもとに時折現れる人物。臨床心理士。
部長…五十嵐諒の上司。怒鳴ってばかりいる。
鈴木…五十嵐諒の部下。隆の先輩。
定食屋のおばさん…不愛想だが優しい。
高校二年生の女性…潤吾の曲を聴いて泣いていた。
勇太…隆が命を助けた高校生。
ヤマモトの母親…息子の居場所を知らない。
津森さん…柳瀬の同僚。ラジオをくれた。
中村さん… 〃 。ミーハー。
田辺さん… 〃 。映画好き。
あらすじ
「ちょっと今から人生かえてくる」は、短編集です。
ストーリーは、「ちょっと今から人生かえてくる」の本がどうやって出来上がったのかという結論に向かって進んでいくのです。ストーリーの中では、作者は北川恵海さんではありません。これはフィクションです。
物語が進んでいく中で、5人の主人公の人生が交錯していき、周囲の人とのかかわりが、浮かび上がっていく構成になっています。本のタイトル通り「5人の主人公が人生を変えていく」物語です。
作品の構成がとても素敵です。例えば、A面とB面は、レコードの表と裏が一体なのと同じく、2人の人物がつながっているお話です。A面とB面という題名が示唆する通り、二人は音楽でつながっています。
「ちょっと今から人生かえてくる」の感想
五十嵐諒について
五十嵐は、過去に自分が行った行為にとらわれて、「罪悪感」と「自己否定」という暗い底なし沼にはまっていました。確かに、五十嵐が隆に行ったことは卑劣な行為で、隆は自殺寸前まで追い詰められ、それは隆の退職の原因にもなったわけですが、それは、五十嵐自身、理由があってのことだったわけで。
世間から見たら、五十嵐の行為はとても許せるものではないけれど、五十嵐自身は自分で自分を理解して、認めて、自分で自分の味方になってあげなくてはいけないと思う。そうじゃないと、挫折やストレスから、人は這い上がれなくなってしまいます。
それと、トラブルは、「喧嘩両成敗」的な側面があるかなって。前作のケースでは、隆の方も、パソコンのセキュリティ対策が甘かったから、簡単に他人にパソコンを乗っ取られたわけで。
でも、最後は五十嵐も、自分の好きなことの道を見つけて歩き出します。
青山隆について
隆は前作で、退職をきっかけに自分の過去への振り返りがあって、今まで「内定出来ればどんな会社でもいいや」っていう、いい加減な気持ちで就職してしまったという気付きから、これからは、本当に自分がしたいと思う仕事をしようという決意に至りました。
隆が立派だなと思う点は、挫折を前向きにとらえて、未来にフォーカスしている点です。五十嵐のことももう、許していて、退職後も連絡をとっているくらいです。この隆の素直さと純粋さを見習いたいなと思いました。
本の文体
本の文体が素敵だなぁと思いました。
その代わり、ふわりと風に舞う春の匂いがした。見上げた空は、あの人のマフラーのように鮮やかな青で、細く伸びた桜の枝先には、いくつかの蕾が膨らんでいた。
五十嵐が、これからの進路を決めて定食屋を出ていく時の風景です。
読むと、寒かった季節がそろそろ終わりを告げ、ちらほらと春の兆しが見える雰囲気が、瞼の裏に浮かびます。
鮮やかな空色のマフラーが目に浮かんだ。そういえば、アイツも最後の日、同じような空色のネクタイを締めていたな。
五十嵐が、ヤマモトの空色のマフラーで、隆を連想します。
色はそれぞれイメージがあってやな。赤は情熱、黄色は元気、緑はやすらぎ、そして青は…」ヤマモトはぴたりと歩みを止めた。
「信頼や」
ヤマモトが隆の為に選んだネクタイの色は、鮮やかに澄んだブルー。
色も風景も、クロスオーバーしていて、眼前に生き生きとイメージが湧いてきます。
惜しい点
ストーリーの中で、本の題名が出てくるのですが、登場の仕方に、もう少しひねりがあるともっと面白かったな。と思いました。例えば、本の題名の意味が、意外なところにつながっていくとか。謎解きのような感じに。
気になる点
4人の主人公は、それぞれ自分の夢を叶えて、望む仕事に就くのですが、1人だけ、違うのは何故なのか?と思いました。その1人も希望が見えたところで物語は終わるんですけれどね。
まだまだ、私の気付かないところで、何かがつながっているかも知れません。クロスオーバー作品って、宝探しみたいで楽しいですよね。
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